2023-01-01から1年間の記事一覧

第19章 序章 (最終章)

第19章 序章 (最終章) 枕元に置いたスマホから鳴り響く何度目かのアラーム音を止めるために布団の中から苦しそうに手を伸ばすと、思いのほかベッドの端に体を横たえていたため、バランスを崩した早川眞一の体は、鈍い音を立てて床に転げ落ちた。「ってぇー!…

最終章の配信

最終章の配信は、再来週の土曜日(8月5日)の20時に、最終章を配信いたします。 皆様、今しばらく物語にお付き合いください(^.^)

第18章 門出

第18章 門出 早々とベッドから起き上がると、男は早速描きかけのキャンバスに向かった。絵の中のターシャに、彼の脳裏にまだ鮮明に残る夢の中の彼女の残像を投射するかのように、男は絵を描き始めた。流れる髪の毛の一本一本を丹念に書き込み、やがてその白…

第17章 誤算

第17章 誤算 船室の丸い窓から柔らかな午後の光が射し込み、6497号室の壁の薄いグレーに少し温かみを持たせていた。そのグレーの部屋の壁際のキャビネットには、薄いピンクとクリーム色とレモンイエローと真紅のバラがたっぷりと活けられた翡翠色の花瓶…

最終章まで後3章

皆様にご愛読いただいております『運命の船』は、8月5日更新予定の19章をもって完結とさせていただきます。 これから終盤に向けて、物語は思いがけない方向に展開していきます。 皆様、最後までお楽しみください(^^)

第16章 作戦

第16章 作戦 「…で、これをどうやって使うんだ?」 丸底フラスコの下の部分だけのような球体のガラス容器を手に、男はルーカスに尋ねた。「これから立ち向かう闇の存在に対して、必要なのは光です。この中に、あなたの光を集めるのです」「…それは一体どう…

第15章 追跡

第15章 追跡 男は自分の鼓動がどんどん早くなって行くのを感じた。彼は鼠男を追いかけたが、そのどす黒い塊のような姿は、あっという間に人込みの中に埋もれて見えなくなってしまった。 男はしばらく雑踏の中に立ち尽くし、遠くの人影に目を凝らしてみたが、…

第14章 セブン・ウィークス諸島

第14章 セブン・ウィークス諸島 プールから上がってタオルを首にかけたまま、男は自室に戻る長い廊下を歩いていた。 彼はひどく疲れていた。まるで自分の理解力を超えた難題をひたすら解き続けなければならない数学者のようで、彼は自分のことを哀れに思っ…

第13章 意外な真実

第13章 意外な真実 人気のない図書室の片隅で、男はかび臭い資料の山に囲まれて、懸命にある事実を突き止めようとしていた。 ターレスの前世での名前、ローバート・ハミルトン。自分と同じハミルトン姓を、私生児である自分の子やその子孫であるロバートが…

第12章 不思議な関係

第12章 不思議な関係 その夜、男は部屋に帰るなり疲れて眠ってしまい、気がつくと、窓の外にはもう翌朝の朝日が高く昇っていた。 彼がぼんやりとベッドの上で横になっていると、ドアが3回軽くノックされた。「どうぞ」と、男がそのままの姿勢で気だるく返事…

第11章 抵抗

く第11章 抵抗 その晩、男は珍しく夜更けに目を覚ました。それから眠れずにしばらくベッドの上で何度も寝返りをうってみたが何となく落ち着かず、かといって起きて活動を開始するにはまだ辺りはあまりに暗く、彼は所在無く目を閉じたままじっとしていた。 深…

第10章 船内プール

第10章 船内プール 「ルーカス、どうされたのですか?随分手間取っているようですが、何か不具合でも?」薄緑色のカーテンの向こうから、ターレスは男に声をかけた。「ふ、不具合って…、ちょ、ちょっと待ってくれよ。この布は…、本当にこんな付け方でいい…

第9章 養母

第9章 養母 翌朝男が目覚めると、例のごとくそこにはターシャの作ったなだらかなシーツの窪みと彼女のほのかな残り香があった。彼はゆっくりと体を起こして、着替えを済ませるとそのまま昨日と同じように図書室に向かった。 昨日から、彼の中に何とも釈然と…

第8章 実母

第8章 実母 目覚めるとそこは、見覚えのある質素な船内の一室だった。あの後どうやってその部屋にたどり着いたのか、その記憶は男には全くなかったが、とにかく彼はその6497号室のベッドの中にいた。初めてその船に乗り込んだ日の様子と部屋の中はそう変わ…

第7章 船上パーティー

第7章 船上パーティー その部屋は大きなホールで、ホールの中は、眩い光に満ちていた。天井から吊り下げられた宇宙船のような形の巨大なシャンデリアは、無数のクリスタルガラスに覆われて部屋の中央でゆっくりと規則正しく回転し、そこから乱反射した光は…

第6章 曾祖父

第6章 曽祖父 壁紙の、デフォルメされた優美な曲線の花模様の連続体をぼんやりと眺めながら、それからいったい何日その部屋で過ごしたのか、男には皆目見当がつかなかった。というのも、この船に乗って以来、彼の中で、はっきりとした時間の感覚が日に日に…

第5章 邪悪な部屋

第5章 邪悪な部屋 その部屋は二メートル先のものはほとんど見えないくらいに薄暗く、部屋の真ん中の小さな照明は、緑色のぼんやりとした光を放っていた。 ジーナの忠告に従うべきだと男は十分分かってはいたものの、禁止されるとその奥が知りたくなるのが人…

第4章 迷走

第4章 迷走 そこまで映像を進めると、ターシャは細い指で壁のボタンに軽く触れ、壁の隙間から金色の円盤を先程と同じ鮮やかな手さばきでスルリと取り出した。壁の映像は消え、男はほっと胸を撫で下ろした。 「どう?前回のあなたの人生の始まりの一場面を見…

第3章 船内案内

第3章 船内案内 次の日の朝、船室の小さな丸窓から注ぐまぶしい朝日を頬に浴びて男は目覚めた。彼の隣にはターシャの姿はなく、シーツの上に出来た浅いくぼみとほのかに残る睡蓮の花のような甘く澄んだ彼女の残り香が、昨夜の出来事を物語るだけだった。 あ…

第2章 船室

第2章 船室 「ねえ、君は僕とこんなことになって、本当によかったの?」船室の、水滴の跡で曇った小さな丸い窓から見える黒い夜の海を眺めながら、男はターシャの長く艶やかな琥珀色の髪に触れた。白いシーツの上に広がった彼女の髪は、一束ずつがまるでそ…

第1章 出航

運命の船 森生 カナ子 これは、今世にまだ生まれていない男の物語である。 第1章 出航 「それでは何かね?君はまた今回も、あの船を見送るつもりかね?」 呆れた表情で、手にした分厚い書類に繰り返し目を通しながら、事務局長ヨハネスは、溜め息混じりに目…