2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

第6章 曾祖父

第6章 曽祖父 壁紙の、デフォルメされた優美な曲線の花模様の連続体をぼんやりと眺めながら、それからいったい何日その部屋で過ごしたのか、男には皆目見当がつかなかった。というのも、この船に乗って以来、彼の中で、はっきりとした時間の感覚が日に日に…

第5章 邪悪な部屋

第5章 邪悪な部屋 その部屋は二メートル先のものはほとんど見えないくらいに薄暗く、部屋の真ん中の小さな照明は、緑色のぼんやりとした光を放っていた。 ジーナの忠告に従うべきだと男は十分分かってはいたものの、禁止されるとその奥が知りたくなるのが人…

第4章 迷走

第4章 迷走 そこまで映像を進めると、ターシャは細い指で壁のボタンに軽く触れ、壁の隙間から金色の円盤を先程と同じ鮮やかな手さばきでスルリと取り出した。壁の映像は消え、男はほっと胸を撫で下ろした。 「どう?前回のあなたの人生の始まりの一場面を見…

第3章 船内案内

第3章 船内案内 次の日の朝、船室の小さな丸窓から注ぐまぶしい朝日を頬に浴びて男は目覚めた。彼の隣にはターシャの姿はなく、シーツの上に出来た浅いくぼみとほのかに残る睡蓮の花のような甘く澄んだ彼女の残り香が、昨夜の出来事を物語るだけだった。 あ…